天の月

ソフトウェア開発をしていく上での悩み, 考えたこと, 学びを書いてきます

「理不尽な進化」を読んだ

こちらの本を読んだので、印象的だった部分について感想を書いていこうと思います。

運と遺伝子の絡み合いによって生み出される理不尽さ

自分は生物の進化について、「弱肉強食」的な側面で強く捉え過ぎていた節があり、強い(優秀な)遺伝子を後世に残し続けてきた個体が現在生存できているのだ、と捉えていましたが、本書を読んで誤った理解をしていたことに気が付きました。
生存しているのは、たしかに遺伝子の影響がありますが、運の要素が占める割合もかなり大きく、例えば恐竜などは、他個体を物理的な戦闘では圧倒する強い遺伝子(巨大な体格)を持っていたけれど、環境変動によって巨大な体格が仇となり絶滅した、という例を聴くと、「弱肉強食」という考え方や生存している種が優秀だという考え方の誤まりに気が付けて、良かったです。
このあたりの話は、能力主義が孕む危険性を説いているマイケル・サンデルの考え方にも一部近しい所がありそうだ、と何となく思いました。

適者生存が示す意味

適者生存という概念は、「適応している」という定義が、子孫を残して生存していることであるという事実を示している概念です。
この概念自体は単なるトートロジーに過ぎませんが、「適応しているかどうか」を測る物差しとして生存しているかが重要な単位であることが示されたことで、多種多様な生物学的な仮説を立てることができるようになり、進化論では有用な概念として扱われてきました。
しかし、自分たちが実際に生活している社会や組織で使われる適者生存は、多種多様な仮説を立てるために使われている訳ではなく、過剰な能力主義(努力をした者だけが組織で上位職に従事することができて、努力を怠ったものは下位職に位置するという考え方)を擁護するトートロジー的な意味で使われてしまっていることも多いという話があり、これが面白かったです。
本書では進化論で説明されていましたが、システム開発でも、適者生存のようにあくまでも仮説の礎となるような概念を、その概念自体があたかも重要な意味を持つかのように理解してしまうこと(内部品質を上げれば開発速度が上がるから内部品質が重要だ...)があるので、注意したいと感じました。

経験的=先験的二重体

人間とは何か?という問いの中で、フーコーが定義した「経験的=先験的二重体」*1という概念が面白かったです。
この定義は、自分自身が物事を考えていく際に、人間的な要素を基に考えていく視点*2と、人間的な要素を排除して考えていく視点*3を往復することが重要であるという示唆を与えてくれて、学びが深かったです。
そして、これがまさに進化論の面白さではないかという本書の主張には深く共感することができて、今後も進化論を学んでいきたいと思うことができました。

全体を通した感想

進化論の本だと思って手に取り、序盤はある程度予想がつく展開で話が進んでいったのですが、終盤になるにつれて次第に思想史や哲学的な要素も入ってきて、終章ではこれら要素や1章・2章でちりばめられていた伏線が一気に回収される、読んでいて楽しい本でした。
幅広い学問が統合され、最終的には「人間とは」という話についても言及がなされ、進化論の奥深さと危険性が文章を通して実感できるのが最高でした。

*1:人間は世界に存在するモノの一部であると同時に、モノをモノとして認識して世界に位置付けることができる知性的存在である

*2:ある意味バイアスにかかって、誤解して考える視点

*3:バイアスをできる限り排除して、何らかのアルゴリズムに従ったり、科学的に考えていく視点