天の月

ソフトウェア開発をしていく上での悩み, 考えたこと, 学びを書いてきます(たまに関係ない雑記も)

(オンライン読書会) 能動的推論  ~心、脳、行動の自由エネルギー原理~に参加してきた

educational-psychology.connpass.com

こちらのイベント(読書会)に参加してきたので、会で話した内容と感想を書いていこうと思います。

能動的推論の2つの道

章のタイトルにもなっている「能動的推論の王道」と「能動的推論の常道」の2つについて話をしていきました。

Whyから降っていくアプローチとHowから積み上げていくアプローチを区別しつつ、両方の視点から説明を試みるという取り組みは面白いよね、という話が出ていました。

また、「王道」と「常道」という単語が持つ意味が今ひとつ自分はわかっていなかったのですが、原著を辿っていた参加者の方から、High Road(王道)に対応する用語かつネガティブな意味もポジティブな意味もない用語ということでLow Road(常道)が選択されたのではないか?という説明をしてもらって、モヤモヤが晴れました。

信念の更新

自由エネルギー最小化の文脈で、信念の更新の話が出てきましたが、これが教育心理学で言う認知の枠組み更新の話とリンクしてくるよね、という話をしていきました。

自由エネルギーやサプライズを最小化したい理由

能動的推論の骨格ともいえる自由エネルギーの最小化について、なぜ生物が最小化する必要があるのだろうか?という話を議論していきました。

本で挙がっていたような、学びを得ていく過程の具体例を考えると、最小化のモチベーションが何か分かりにくかったのですが、魚と水の関係性だったりその場から立ち去らないと死んでしまうような状況を考えてみると、生物として絶対に備えていないといけない仕組みと捉えるのが良いのでは?という話になりました。

生成モデル

本書では人が生成モデルを持ち、現実世界とは異なった隠れ状態を保持することが書かれていますが、これがカントの言う触れない現実(=「物自体」)と近い概念に感じる、という話が出ていました。

能動的推論が統一的に幅広い事象のメカニズムを説明する論とあって、カントの他にも認知科学の表象や物理学の無意識論的推論としての知覚の考え方とも関連していそうという話が出ていて、非常に興味深い内容でした。

一番近いリンゴの木を見るという「行為」

本書では、知覚と行為それぞれがモデルと世界のずれを最適化(最小化)するよね、と言う話が出ていましたが、その行為の例として挙がっていたりんごの木を見直す例がよくわからないよね、という話をしていきました。

世界を変える「行為」という単語からは、現実世界の物質に対して何かしら手を加えるようなものをイメージしていたので混乱があったのですが、原文だと無冠詞のWorldが世界には割り当てられている*1ということで、自身が見えている範囲を更新するくらいの意味合いで述べられているのでは?(りんごだと思っていたものがりんごじゃないときに、近くのりんごの木を見て、やっぱり自分が見ていたのはりんごだったんだ、と納得させる)という話になりました。

理解が今ひとつできない部分

読む難度が非常に高い本ということもあって、以下の点は今後本を読み進めていく中で議論を重ねたいという話になりました。

  • 期待自由エネルギー(特に、リスク(状態/成果それぞれ)や曖昧さという考え方)
  • 変分自由エネルギーと期待自由エネルギーが入れ子になっているという説明の真意
  • 数式の詳細な解釈

会全体を通した感想

元々自分が読みたいと言って読書会に持ち込んだ本で、みんなが面白がりながら読んでくれるのかわからずヒヤヒヤしたのですが、皆さん面白かったと話してくれた上に、いつも通り自分が知らない知識の補強や議論による理解の促進ができたので、とっても楽しかったですし学びが多い時間になりました。

今回議論した内容や今後理解を深めていきたいと考えた部分を踏まえながら、次回も楽しい時間が過ごせるように該当章を精読していこうと思います。

*1:ただしこれはあくまでも書籍内の図だけで、本文中はThe worldとなっている