天の月

ソフトウェア開発をしていく上での悩み, 考えたこと, 学びを書いてきます(たまに関係ない雑記も)

エンジニアの処方箋 #2 〜エンジニアのメンタルヘルスを考える〜に参加してきた

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こちらのイベントに参加してきたので、会の様子と感想を書いていこうと思います。

会の概要

以下、イベントページから引用です。

エンジニアという職業は、他の職業に比べ、うつ病などのメンタル不調に陥る可能性が高いと、過去の調査から明らかになっています。 しかし、実際に、診療所に行くのはハードルが高いし、身近な人にもなかなか話しにくい…そもそもメンタルの不調は気付きにくいという特徴もあります。 そんな方に「エンジニアにメンタルと向き合うきっかけ」を提供するのが、エンジニアの処方箋シリーズです。 エンジニアのメンタル不調の現状から、個人、チームの視点からメンタルヘルスについて、専門家と一緒に学んでいきます。

【シリーズで取り上げる話題】

・エンジニアを取り巻くメンタルヘルスの環境

・個人、チームでできるメンタル不調の対策

・メンタルの健康を維持していく方法

今回 エンジニアの処方箋 File.2 では、「心のHPが0になりそうなとき」に読んでほしい本「メンタルクエスト」の著者、秋葉原内科saveクリニック院長である鈴木裕介先生にお越しいただき、自分のHPが0になる前にできることについてお話いただきます。

・ストレスとは

・個人からできるメンタルヘルスとは

・自分のHPが0になる前にできること

についてお話いただきます。 メンタルヘルスをよりわかりやすく個人から始められるように、先生の大好きなゲームの世界観と絡めてお話していただきます。

会の様子

基調講演

メンタルヘルスリスクが高い職業

イムリーに相談しにくい関係性が多いことや自身の強固なこだわりが強いことが原因で、エンジニアのメンタルヘルスリスクは一般的な平均値と比べて3倍くらい高いという話が導入としてありました。

ストレスとは

ストレスと言うと、ストレッサー(あの上司が高圧的、厳しい成果を求められる環境...)の方に注目がいくものの、ストレッサーから刺激を受けたときの反応自体もストレスなため、ストレッサーだけでなくストレスにも目を向けないといけないという話がありました。

セリエのストレス学説

どんな形の刺激を入れても、

  • 副腎皮質の増大(アドレナリン放出)
  • リンパ組織の萎縮(免疫機能低下)
  • 胃腸の潰瘍(胃や腸の粘膜が枯れる)

という3つの反応が出ていることに気がついたセリエは、風邪などで体調が悪くなるときと同じメカニズムなのではないか?と考えたそうで、警告反応期(嫌だなあと感じる)→抵抗期(過剰な抵抗力が出てきて、むしろ調子が良くなるような感覚がある)→疲憊期(一気に体調が悪くなる)と経過を追うことが分かったそうです。

メンタル不全で出る身体の症状
  • 便秘・下痢
  • 吐き気
  • 胃痛・食欲不振
  • 頭痛
  • 不眠
  • めまい
  • 手のしびれ

の症状がメンタル不全の結果出るという話がありました。そのため、身体不調が出ているときにメンタル不全を疑ってあげることは非常に重要だということでした。

特に朝の頭痛は危険だそうで、朝の頭痛を感じている人の30%は抑うつ状態にあることがわかったという研究もあったそうです。

心理的ストレッサー

  • カタストロフィ(大災害やコロナ感染など生命に危機をもたらすような状況)
  • ライフイベント(家族が増える/減るなど。ストレス・マグニチュードも参考)
  • デイリーハッスル(小粒でちょっとしたストレッサー)

の3つが紹介されていきました。

大事なポイントとしては、決して悪いことだけではなく良いことでもストレッサーになるということと、エンジニアの小粒のストレッサーとして代表格である腰痛に対処することの2点があるそうです。

腰痛は髄核のズレによってもたらされるものであるため、適度にストレッチすることも重要だということでした。*1

また、腰痛に関してはメンタル疾患から来る(メンタル疾患になると痛み過敏な状態になる)ものも多くあるため、要注意だということです。

ストレス反応の個別性

FFS理論をもとにストレス反応の個別性に関して紹介がありました。

凝縮性(こだわりの強さと責任感)/受容性(やさしくて面倒見がよい)/弁別性(白黒切り分ける合理性)/拡散性(枠から飛び出す攻めの力)/保全性(枠を維持する守りの力)という5つの因子の強さに応じてストレッサーが変化してくるということです。

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例えば、「とりあえずやりましょう」「ざっくりでいいのでこれやりましょう」といった言葉は拡散性が高い人は全然ストレスを受けない一方で、保全性が高い人は非常に高いストレスを受けるということでした。

また、エンジニア特有の特性としては弁別性の高さが挙げられる(話の合理性を重視する。単刀直入に話をするのが好き)そうで、こちらは日本人に多い受容性が高い人たちにストレスを与えやすいため、合理性を重視しない場面があるという合理性を意識することが必要だということでした。

コーピング

ストレスマネジメントの方法として、コスト/効果の大きさが多種多様なコーピングを要していおくことが重要だということでした。

食生活

精神栄養学の観点から、

  • 地中海食事のほうが西欧式食事よりうつになりにくい
  • トリプトファンの摂取不足がうつを招く
  • 心が病むと糖質依存になりやすい

という話がありました。

具体的な食事としては、豆乳バナナスムージーや緑茶、魚油がおすすめだということでした。*2

パネルトーク/Q&A

講演の後はQ&Aセッションがありました。以下、内容を常体かつ一問一答形式で記載していきます。

オンラインでのPJメンバーの不調確認方法が知りたい

不調を正しく伝えられる雰囲気作りが浸透できているのであれば、Max体調を100としたときに今の体調がいくつかを毎日共有するのは有効。また、マネジメントクラスが積極的に不調を伝えないとだめ。

常にモチベーション高くいることは難しいと思うのだが、モチベーション落ち気味のときにどういう努力をしたらいいのか?

「モチベーションを常に高く」という考え方がまずよくないかも知れない。モチベーションが落ちているときは何かしらの理由があるので、意味を見出してあげることが重要。

転職活動中のメンタルケアを知りたい

セルフイメージが低い状態になりがちな状態だと思うので難しいと思うが、ハイペースにはあまり進めないことは重要。

自己分析をするなど、一度立ち止まることも大切。

また、キャリアコンサルティングなどを活用して時間やお金をかけるのもおすすめ。

ケリーマクゴニガルのストレスをパワーに変えるという意見についてどう考えるか?

こういう考え方もあるんだよという一つの意見としていいと思う。
ハイプレッシャーなところにいるのもしんどいが、あまりにもゆるい職場にいるのもしんどい。

成長と自責のバランス感覚と、その2つをトレードオフとしない方法について知りたい

一般的な傾向として、若い人に対してはすべて自責を求めるような傾向があるが、鈴木先生としてはこれは逆だと思っている。

まだ何が自分の成長につながるかわからないような若い人は、ちゃんとこの人は自分のことを見ている人なのか?なんでもかんでも自分のせいだという意識を与えてくる環境ではないか?というのを考えておくことが重要だと思う。

メンバーの不調の察知方法とメンタルケアの方法を知りたい

眠れているかを聞くことが重要。似た観点として、ちょっと目が開いていないときなどは注意する。

産業医的なアプローチとしては金曜日に有給を取ることをおすすめする。

メンタル不調が起きるとやり直しがきかなくなるような社会的風潮に怖さを感じるのだが、復帰できるための環境づくりの事例が知りたい

これはプロがやったほうがいい。
ただ、プロの視点から見ると「めちゃくちゃ頑張ってるけどよく死ななくて運がいいよね」という人は本当にたくさんいるので、質問にあるような社会的風潮を作っている人は誤っていると思っている。

また、鈴木先生は一度メンタル的な限界が来た人とだけ働いている。そういう人にしかできない気配りがあったりするので。

突然不安になって泣いてしまうときはどうしたらいいのか?

これは感情が飽和しているタイミングであり、安心できている状況なので思いっきり泣いたほうがいい。ただ、それがずっと続くならケアは必要。

5月病対策はあるか?

新しい季節とか異動の時期にめちゃくちゃ頑張るというのはよくあることなので、5月病になったらペースを落とすなどすればいいと思う。

また、五苓散という漢方薬はおすすめ。

会全体を通した感想

久しぶりに全然知らない話だらけのイベントでめちゃくちゃ楽しかったです。

論文や本も多数知れたので、ぜひ読んでみようと思います。

*1:足を肩幅よりやや広めに開いて両手を支点に腰をしっかり反らした後、息を吐きながら最大限に反らした状態を3秒間保つ

*2:ただしすでにうつな人に魚油は効果がないという研究がある