こちらのイベントに参加してきたので、会の様子と感想を書いていこうと思います。
会の概要
これまで Forkwell のイベントで登壇されたエキスパートの方々は、先達が記した書籍から「気づき」を得て実践し、振り返り、再現性のある「学び」として身に付けていく中で、実績を築いてこられました。
しかし、日々限られた時間の中で知識や情報をアップデートし続けるのはそう簡単ではありません。 Forkwell Library では、著者・訳者・実践者らを登壇者として招き、そんな思いを抱えた開発者の皆さまが「学びのきっかけ」を得られる勉強会を目指します。 今回の第10回目では2022年11月4日に出版されたばかりの 『「技術書」の読書術』 を取り上げます。
おそらく本邦初、「技術書(コンピュータ書)」の読書術を指南する本が登場ということで正にこのForkwell Libraryシリーズに必要な学びであると考え、著者であるIPUSIRON氏、増井敏克氏をお迎えして読書を血肉にするコツとテクニックを伺っていきます。
会の様子
講演A〜『「3」の発想』で考える技術書の読み方〜
まずは増井さんから講演がありました。以下、内容を記載していきます。
技術書の特徴
まずは技術書の特徴の説明がありました。特徴としては、以下が挙げられていました。
- 一冊で完結することが少ない(複数の技術が絡み合っている)
- 変化が激しい(少し前に出版された本がすぐ使えなくなる)
- 体系的にまとめられていることに価値がある(インターネットでは間違った情報が氾濫している、正しい情報を整理して学ぶのにコストがかかる)
3の発想
「3」の発想 数学教育に欠けているもので話されている、2の発想ではなく3の発想がまさに技術書を読む時に必要なのではないか?という話が導入としてありました。
具体的にいうと、入門書を読んだ後に専門書を読むのは2の発想で、入門書を読んだときに3冊をまとめて見比べるのが大事な発想だということでした。(2冊だと間違ったことが一方に書かれた時に比べられないし、どこが重要なのかのグラデーションが分かりにくいが、3冊読むと重要な部分がわかる上に、あっているか間違っているかを多数決で判断できるようになる)
本を読んだ後
たくさんの本を読んでほしいし、読んだ本はアウトプットをしていってほしいという話がありました。
これは、100マス計算で有名な岸本先生が、「読む量は学力の上限を規定し、書く量は学力の下限を規定する」という言葉を話されていることから影響を受けているということでした。
本選び(買う本のバランス)
仕事×勉強×遊び、消費×投資×浪費といったように、3つの要素のバランスを考えながら本を読むといいのではないか?という話が挙がっていました。
本の読み方
- ざっと流し読みする
- 手を動かしながら読む
- ノートにまとめながら読む
の手順で増井さんは本を読んでいるという話がありました。
ここでも「3」という数字に増井さんはこだわっているということで、一回手を動かしても忘れてしまうので、その復習として3回目を重要にしているということです。
ノートにまとめるときは、分類しないことを重要視しているそうで、ScrapboxやObsidianといったツールを活用しているということでした。
講演B〜インプットとアウトプットの循環を実現する読書術〜
続いて、IPUSIRONさんから発表がありました。
インプットとアウトプットのバランス
まず、インプットとアウトプットのバランスについて話がありました。
「インプットとアウトプットをバランスよく」だったり、「価値あるアウトプットのためにインプットを」ということが叫ばれますが、IPUSIRONさんは、圧倒的なインプットを行えば自然とアウトプットの試行回数が増えるため、アウトプットとのバランスをあまり気にすることはないという主張を持っているということでした。
価値あるアウトプットとは
価値あるアウトプットとは何か?について深掘りをしていきました。
一般的には、
- 人のためになる
- 一般人に支持される
- 金を生み出す
などがアウトプットとして言われていますが、評価されるか否かやタイミングの問題もあるため、価値を自身でコントロールのは難しいということでした。
そのため、IPUSIRONさんは、アウトプットの価値には注目せずに、とりあえず形あるものを表に出すことを意識したほうが良い、という話をしてくれました。
成果物による循環
インプットをして成果物を表に出すアウトプットをすることで、以下のような循環効果が期待できるという話がありました。
- 知識がより強固になる
- 成果物を作るためのハードルがどんどん下がる
- 巻き込む分野や関係者が増える
- 別ルート(思いもよらぬ効果)が生まれる。具体的には、新しい仕事依頼がきたり、新しい分野と出会ったり
IPUSIRONさんも本を多数執筆していますが、圧倒的にインプットをして本を一冊執筆したことが現在の活動や翻訳にもつながったということでした。
読書というインプット
読書というインプットを深掘りしていきました。IPUSIRONさんは、読書には以下の特徴があると考えているそうです。
- リスクがない。価値がマイナスになることはない。
- 金融資産と知識の分散投資につながる
- コストが低い。ただし本代はかかる
- 上限はある。10,000冊を一年に読むのは無理
- 知識を得る以上のアウトカムを得るのは難しい(読書以外のほうが効率的)
- 現金化できない
- 知識を相続することはできない
この性質から、知識を得ることには読書は非常に適しているものの、事業や仕事を作り出すには、決して最効率だとは言えないということでした。
公式サポーターLT/書籍プレゼント企画案内
翔泳社さんが、今回書籍を執筆したIPUSIRONさんや増井さんの本を紹介してくれるLTを実施してくれました。
また、Forkwellさんからは本イベントの参加者向けに行う書籍プレゼント企画の説明がありました。
Q&A
以下、Q&Aの内容について一問一答形式&常体で記載していきます。
本は紙派?電子派?
増井さん...基本的には紙。ただし検索を使いたいものは電子。ストーリー性のある本は前から辿るだけなので見出しを読む必要がなく、電子で買うことがある。雑誌は後で保持すると困ることがあるので電子で買うことがある。
IPUSIRONさん...半々くらい。値段が安いかどうかや手を動かして読むかどうかで決める。
1日の読書時間は?どうやってその時間を確保する
増井さん...空いた時間に読めるようにして、特に読む時間は決めていない。
IPUSIRONさん...時間を気にしたことはない。どこでも読める環境は作っている。散歩中は倍速でオーディオブックを利用したりしている。
文章の書き方でおすすめの本は?
増井さん...結城浩さんの数学文章作法が有名どころだとあるが、他の人の文章を真似することが増井さんの場合は多い。接続詞や文章のリズムを真似してみるとか。
IPUSIRONさん...どれがおすすめとかはなく、複数読んでできるものから使っていく。接続詞や数学の証明順序を活用している。
読まなくなった技術書はどうしている?
増井さん...ずっと残しているので本棚は大変なことになる。読まなくなったの判断をそもそも持っていない。
IPUSIRONさん...たまに売ることはあるが、基本的には溜める。中身が古すぎる本とかは読まなくなったと判断することがある。
仕事が忙しい時に読書をすると息が詰まるときがあるのだがどうしているか?
増井さん...目が疲れることはあるが息が詰まることはない。リフレッシュはゲームしたり散歩したり。
IPUSIRONさん...敢えて普段読まないような本を読んで息抜きしたりする。
メモを管理する方法は?
増井さん...自分用のメモはObsidian。人と共有するときはScrapbox
IPUSIRONさん...物理ノートやiPadなど。
技術書のイラストや図解はどのように管理しているか?
増井さん...PowerPoint使ってあとは出版社にお任せ。
IPUSIRONさん...Visio使ってあとは出版社にお任せ。
流し読みするときのコツは?
増井さん...見出しと太字だけ見る。最初はざっと読むことに専念する。
IPUSIRONさん...ちょっとでも得られるものがあればいいと気軽に読む。
アウトプットをブラッシュアップするコツは?
増井さん...ブラッシュアップをあまり考えない。ひたすら記録を残す。そんなにハードルは上げなくていいと思う。
IPUSIRONさん...あんまり参考にならないかもしれないが、出版段階でブラッシュアップする。
手を動かす時間と読む時間のバランスはどうとっている?
増井さん...結構崩れてしまう。ただ、インプットなしにアウトプットはできないので、無理矢理でも取るようにはしている。
IPUSIRONさん...発表でも話したように、圧倒的にインプットしていればアウトプットもできる。
興味が目移りして中途半端な積読が増えてしまう
増井さん...同じ悩みを抱えているので対処方法を教えてほしい。
IPUSIRONさん...積読は悪ではない。当たり前。目移りするのも悪いことだと捉えないほうがいいと思う。
なんで二人は超人なのか?
増井さん...書いてくれた人からのメッセージをこの値段で読めるのはすごいなあと思うので本を読んでいる。
IPUSIRONさん...偉人の人生を体感できるから。あとは読書が手っ取り早い方法だと思っている。
会全体を通した感想
自身が実践していることと重なる部分も多くありましたし、本が好きな理由や読書を続ける原動力の部分も自分とまさに同じだったので、非常に共感できる内容が多いイベントでした。
IPUSIRONさんの話にあった圧倒的なインプットを意識して、自分も良い読書ライフを送っていきたいです。