天の月

ソフトウェア開発をしていく上での悩み, 考えたこと, 学びを書いてきます(たまに関係ない雑記も)

アジャイルコーチとスクラムマスターの集い(2023年11月16-18日)に参加してきた(Day3)

www.attractor.co.jp

昨日に引き続き、こちらのイベントに参加してきたので、会の様子と感想を書いていこうと思います。

川口さんと洋さんのミスコミュニケーション

川口さんと洋さんがミスコミュニケーションを起こした結果、田口さんが温泉で頭だけ出した状態で見つかったという話になったという話を聴いていきました。

川口さんはその流れでウミガメのスープ形式で「なぜ田口さんは温泉で頭だけ出した状態で見つかったのか?」を質問として出したり、えいみさんのプライベートの話を聴いたときに川口さんが思いついた仮説の話などを喋っていたのですが、それを見た洋さんが「川口さんめちゃくちゃ面白いなあ」と呟いたところ、川口さんが面白いのではなく川口さんがもう一人の川口さんらしいなにかに操られ、ペアプロでいうドライバーを自分は正確に行っているに過ぎない(洋さんももう一人の洋さんらしいなにかに操られて川口さんが思うようなことを思いついているのだけれど、それをドライバーがシャットアウトしてしまっている)という説を力説していました。

POの筋トレ

狩野先生のMaryとJohnの話をはじめとした昨日起きたことの話を、ひたすら葬送のフリーレンで川口さんが語っていました。

これは、プロダクトのことを色々な立場の人に説明する必要があるPOの筋トレになるんだ、と力説をしていました。

bonotakeさんAckyさんと誰も教えてくれなかったアジャイル開発の話をする

昨日夜の話しの続きて、Ackyさんbonotakeさんと一緒に、誰も教えてくれなかったアジャイル開発があまりにも酷いという話をしていきました。

話していたことはbonotakeさんのTweetがめちゃくちゃまとまっているので、そちらのリンクを貼っておきます。

村田さんに自己紹介で気になっていた話を会話

初日にあった村田さんの自己紹介で非常に気になるところがあったのですが、初日から話しかけてしまうと、この後の3日間ずっとその話をし続けかねないくらい気になっている話題だったので、敢えて3日目に話をしにいきました。

想像どおり自分が興味ある内容で、1時間弱話をしていたのですが、話していた詳細な内容は機密情報も含むので全部割愛します。
あと、そういえば自分がなんでそんなに興味を持っていたのかを村田さんに伝え漏れてしまったなあということにブログを書いている最中に気が付きました。

田口さんのクロージングキーノート

田口さんから今回のリトリートのクロージングキーノートとして、12年前にあった伝説の講演を再演してもらいました。(CEDECで初めてスクラムに関して話された講演なのだが、現代で話しても全然通じるし、クリントン・キースがアジャイルなゲーム開発に書いていた通りの話をキースの本が日本語訳される前に実践していて、この話を聴いた川口さんは田口さんが乗り気ではないことを察しながらもすぐに田口さんの現場を見学するアポを取った)

以下に内容を記載していくのですが、スライド(特に実際に田口さんのチームがスクラムをしているときの写真)があってこそめちゃくちゃ感動を呼ぶ内容になっている+自分の文章スキル不足で、実際にその場で聴いたときに起きる感動の3-5割くらいのものしか残せていないことを先にお詫びします。

会社紹介

会社紹介と自己紹介から当時の再現があり、見どころ満載でした。

具体的には、発表当時は会社紹介の一つのパターンであったという「続きはWebで!」のくだりに参加者一同盛り上がったり、「具体的に何を作っていたプロジェクトなのかは言わないですけれど...」といいつつ話を聴いたら一発で何を作っていたのかわかるボケで爆笑をさらったりしていました。

なんでスクラムをやろうと思ったのか?

当時管理職だった田口さんは、管理をするのが面倒くさいので、スクラムやれば管理しなくていいんじゃないの?という発想を持ったそうで、楽に管理する方法としてスクラムを導入することを決めたということでした。

最初のスクラム

最初は小規模にエンジニアだけでスクラムを始めたそうです。

  • 2週間スプリント(月2回のスプリント)
  • エンジニアは4名
  • スケジュールはデジタル管理(Excel/Mantis)
  • スクラムイベントはすべてやる

からのスタートだったということでした。Mantisの登場には話を聴いていた人たちが盛り上がっていました。

UIチームの発足

最初の状態から新たにUIチームが発足し、これまでと同じようにスクラムをしていたそうですが、チームが2つになったことで一日中話す機会がなく、どこまで作業が進んだのかもお互いにわからなくなってしまったということでした。

そこで、デイリースクラムを毎朝15分開催時間をチームごとにずらして行うことに加えて、スケジュール管理を全員が見える場所で行うようにした*1そうで、この際に壁を使おうと壁の前にあった橋台などの機材をチーム全員でどかしたという話がありました。

壁を使おう!という話のもと、みんなで橋台を動かしている時間は、田口さんがこれまでスクラムをやってきて楽しかった瞬間の1 snapshotとして今でもずっと記憶に残っているそうです。

結果的に、アナログの大きなタスクボードができたそうで、チームは頻繁に状況を更新し、お互いの作業に関心を持つようになった上にスクラムをやっていない周囲からの注目も集めるようになったということでした。(入り口付近の目立つところにあるので、自然と見ることになるし、見たタイミングでメンバー同士の会話が発生したりしていた)

スプリントプランニング

プランニングをスプリントごとに3-4時間実施することで、2週間スプリントの精度高いスケジュールができるようになったということでした。

再演してみると、「精度高いスケジュールができるようになった」という表現はちょっと変だなあと田口さんが補足もしてくれました。

スプリントレビュー

スプリントレビューはゲーム業界ではめちゃくちゃ熱い場になるということでした。実際にスプリントレビューの様子を撮った写真を見たときは、話を聴いていた人たちが思わず声をあげていました。

田口さんのチームが、世界を変える瞬間が世界で初めてお披露目される場がスプリントレビューだと捉えていたことに加えて、ゲーム業界というコンテキストが重なり、ゲームが好きな田口さんのチームメンバー以外の社員たちも大勢集まり、全員で「もっとこうしたほうが絶対おもしろい」「この動き最高」みたいなプロダクトに対する意見がガンガン出たそうで、スプリントレビューが終わると膨大な付箋が残って整理に困ったという話がありました。

プロダクトの説明をしている際に「XXは本当はこんな動きをするんじゃないんです」と泣き出したりする人もいたり、ゲームが好きな社員同士でプロダクトの方向性に関して大喧嘩が発生したりもするそうで、これだけ熱い場になるのはゲームやゲームを作ることが大好きなゲーム業界ならではなのかもなあと田口さんが呟いていました。

プロダクトバックログ

プロダクトバックログも壁を使って管理していたそうで、大量の付箋が並び替えされていたということです。(壁の上から準に過去の付箋→現在のスプリントの付箋→未着手の付箋)

さらなるチーム拡張

こうしてスクラムがどんどん上手くできるようになり、今度はエンジニアだけではなくアーティスト系の人たち(2Dアーティスト+ゲームデザイナー)も各チームに参加するようになったということでした。

さらにこれまでの2チームに加え、ネットワークチームも発足し、チーム人数も10人を超えるため分割したということでした。

席替え

チーム発足したことを契機に、3つのチームそれぞれが自分以外の2チームを見れるような席になるよう席替えしたということです。

席替えをするまでは、職能ごとに席を配置していたため、各職能を束ねていた"マネージャー"は「こんな席にしたら自分が管理できなくなってしまう」と不満をこぼしたそうですが、チームがコラボレーションするためには席替えが必要不可欠だと考えた田口さんは不満に屈することなく席替えをしたそうです。

結果的に席替えは大成功だったということで、チームが集まりやすくなって迅速な情報共有ができるようになったという話がありました。

Tass?

チームが更に拡張したことを踏まえ、2部制のプランニング(=前半は各チームの代表者が参加して後半はチーム内で詳細なタスクの抽出を行うプランニング)を実施するようになるなど、現代でいうLessのような仕組みを新たに作ったということでした。
プランニングではプランニングポーカーを導入するなど細かい工夫もしていたそうで、とにかくにぎやかかつ効果的なプランニングが行われていたということです。

この取り組みにTassという名前をつけておけば田口さんは今頃すごい儲かっていたのでは?という話が出ていました笑

キャラクタ制作グループの改善

こうして拡張後もうまく軌道に乗ったスクラムチームですが、まだ課題はあり、それがキャラクタ制作グループとのコラボレーションだったという話がありました。

キャラクタ制作グループはトライエラーで試行錯誤していきましょうというよりは、一定のクオリティが決まっていてそのクオリティを守りましょうという方針で仕事を進めていたそうで、連携するのが複雑になっていたということでした。

そこで田口さんはカンバン+朝会を導入したそうで(スクラム固執しない)、キャラクタ制作チームの作業の様子を表面化するようにし、仕事の連携がしやすくなるようにしていたということでした。

スクラムを運用してみてわかったこと

結果的にスクラムチームは更に増え、会社の中で多くのチームがアジャイルな開発を行うようになったということでした。(発表中では明示的に話がありませんでしたが、作っていたプロダクトもめちゃくちゃ売れました)

このような状況になったのは、まず小さな規模で変更を試して段階的にスクラム導入したのが要因だと田口さんは考えているという話がありました。

感想戦その1

田口さんの再演を聴いていた参加者たちで、感想戦や質疑応答をしていきました。以下のような話が出ていました。

  • 王道で成功したスクラムチームの話って感じですごくよかった
  • プロダクトがみんなだいすきというのはすごく強いんだなあと思った。話を聴いていて、レビューがめちゃくちゃいいなあと思った
  • 間違いなく今でも全然通用する話だった
  • この発表がCEDECでされた最初のアジャイルの発表だったので、ハードルが上がりすぎて3年くらいはアジャイルの発表がなかった(プロポーザルとして来ることはあったのだが、田口さんの話にどう考えても及ばないので落とした)
  • ゲーム業界ならではの苦労みたいなのはあったのか?
    • 膨大なデータ量みたいなところとか、1秒間に60回更新することによって生じる不整合とかは大変だった

感想戦その2

発表があまりにも良すぎて、田口さん川口さん稲野さん洋さんと一緒に、更に感想戦をしていきました。以下のような話が出ていました。

  • ゲーム業界いいなあと思ったという半裁。B2Bシステムとか作っている人でゲーム業界と同じくらいプロダクトのことを愛せる人っているんだろうか...と思ってしまう
  • 川口さんと田口さんの出逢いの発表だったという話(川口さんはCEDECのチェアとRSGTのチケットを交換していた。そのため、川口さんはもらったチケットでCEDECにいって田口さんの存在を知り、田口さんは川口さんからRSGTのチケットをもらってしばらくずっとRSGTに参加するようになった)
  • 他の場所でも積極的に再演をしてほしいという話
  • ファシリテーションタイムマネジメントの観点を中心にスクラムマスターが行っていたという話
  • 発表であまり話していなかったレトロスペクティブの話(ゲーム業界のレトロスペクティブは、もっとプロダクトをこういう風によくしていこうよという具合にプロダクトのスプリントレビューの続きが行われがちだったので苦労したという話)
  • ゲームに対する思い入れが強すぎてクソゲーができてしまうことがあるという話(ゲームが得意な開発者やPOが、自分はゲームが好きだし得意なのでプロダクトのユーザー視点で考えることができると誤解してしまい、ありえない難度に調整されたり、熟練者だけが楽しめるようなコンテンツが生成されてしまう)
  • クソゲーを開発しないための宮本茂の肩越しの視線の話(宮本茂は自分が作ったゲームを、総務などゲームをそんなにやらないような人にプレイしてもらい、プレイしている様子を肩越しに観察して、どんな風に遊ぶのかを見ていた)
  • 田口さんの発表の後kkdさんが来て、IPAに事例を載せたいと言われたが、田口さんの上司に当たる人は「それうちになんのメリットがあるの?」と懐疑的な反応をした話
  • ディスカバリーやプロダクト価値に対してフォーカスした本が増えている原因の推測(スクラムが当たり前になったからではないか?いわゆる上流の人たちが勉強をいよいよしないといけないとなってきたからではないか?)
  • 王道だったからこそ成功したという話
  • (現代で発表して12年前にこれはすごいとはなっても、やっていることは当たり前かつ現代基準だと色々足りないのですごいとはならないと思うという田口さんの意見に対して)スクラムを自分たちのコンテキストにアレンジしてみた、みたいな話は多く聞くがそれでうまくいっているの?というと全然そんなことはないチームも多いので、田口さんほどうまくスクラムを実践できているチームは稀有だと思う話

過去の話の再演

今回の田口さんの再演がめちゃくちゃよかったという話から、洋さんや森さんAckyさんと、過去にすごいよかった話を再演してもらうというのはありかもね、という話をしていきました。

その話の流れから、ぜひもう一度聞いてみたい話になり、以下が挙げられていました。

クロージング

簡単なクロージングがKiroさんからありました。家に帰るまではリトリートだよ、という話がありました。

ランチ

bonotakeさんから森さんに向けて、ディスカバリーとデリバリーを1チームで両立する際の工夫に関して質問があったことをきっかけに以下のような話が出ていました。
議論が盛り上がっていたのはもちろんですが、ジョイマン攻撃をはじめとした川口さんからの流れ弾を受けながらも平然と語り続ける森さんにもみなさん盛り上がっていました。

  • デリバリーとディスカバリーを1つのチームがやること自体は別に問題ないと思う
  • ディスカバリーは基本的に負けることが多い一方で、デリバリーはやればやるだけ売上は上がるみたいなところがあるため、評価の仕方がまるで異なる点に関しては注意をしたほうがいい
  • 大ヒットプロダクトができるとディスカバリー能力が落ちることが多い。デリバリーに力を入れればどんどん売上自体は伸びるし、自分たちのディスカバリー能力が発達していないことに気が付きにくいフォースが働く。さらにプライドが高くなりがちなのも重なると、より一層厄介になる
  • デリバリーとディスカバリーを1:1というのは基本的に承認することが少ないので、Googleの20%ルールを参考に、8:2くらいの比率で提案するのがよいと思う
  • ディスカバリーをやろうとなって、「じゃあデザイン思考を導入しよう」となるのは結構やばい方向性にいきがち。「デザイン思考をすでに実施したのですが次はどうしたらいいのですか?」みたいなとんでもない質問が来たりすることもある

暖さんと話す

最後の最後に暖さんとお話をしました。(初日の夜にもお話できそうな機会はあったのですができていなかった...)

お互いにどんなことをやっているの?という話をしたりリトリート全体の軽いふりかえりをした後、昨日暖さんと雑談をしていた人たちが口々に面白いテーマだったと話していた内容を聴いたりしていきました。(やや過激でハレーションを生む可能性もあるので具体的な記載をブログでするのは避けておきます)
他にも、今回のリトリートで話してみたかったのは誰ですか?という話や、この場にはいなかったけど話をしてみたいメンバーは誰ですか?という話をしたりしていきました。

最後の最後での会話になってしまいもっと話したかったのに話せなかったのは残念なのですが、もしかして何も話せず終わってしまうかな?と思っていたので最後とはいえ話すことができてよかったです。

中佐藤さんと話す

バス停で中佐藤さんと一緒にバスを待つ間に少しだけ話をしました。

中佐藤さんが今回連れてきた高橋さんが、どんどん溶け込んでいるようにみえてすごかったという話をしたり、中佐藤さんが次回やるチャレンジの話をしたりしました。

また次のリトリートでまたお逢いする約束をして、Day3が終わりました。*2

全体を通した感想

Day3という意味だと、これは本当に田口さんの再演につきるのかな、と思っています。素晴らしいセッションでした。

3日全体を通してだと、今回は自分が聴いてみたかった話や前回参加してみて感じたこういう場でしか発生しないであろう話を如何にたくさんするか?にフォーカスしたため、自分が聞きたい話を大量に聞けて、本当に大満足でした。
一方で、初対面の方とのコミュニケーションはだいぶおろそかになってしまったので、ここはもうちょっと意識的に次回以降はできたらな、と思いました。

*1:デジタルの場合、開くのが手間で更新頻度にもばらつきが出やすかった

*2:クロージングで話があった通り、厳密には家に帰ったときが終わりなのですが、この後は誰かと会話することもなかったのでDay3の終わりとしています