昨日に引き続き、DevOpsDays Tokyoに参加しています。
2日目はめちゃくちゃ楽しみにしていた塩田周三さんの基調講演を聞いたので、その様子を書いていこうと思います。
- ポリゴン・ピクチュアズ
- 塩田さんはなぜ今の立ち位置を確立できたか?
- ノリと組織
- おわりに〜プロダクトづくりで大切なこと〜
- 質疑応答
- 伝える力の話があったが、「俺が正しい」という人にはどのように接しているのか?
- 点と点をつなげようと考えて次の点を打つときにどうしたらいいのか?
- Whyが重要なのはわかるが、自分のWhyを探して言語化するという作業が辛いのだが、どうしたらいいのかアドバイスはあるか?
- グループマスターをやっていくぞ!!!!!(大声)みたいなノリを自分はするのだが、これについてくる人ついてこない人がいる。塩田さんはグループマスターとしてノリを作る際に気をつけていることはある?
- カンファレンスをコミュニティでやっている。そこではなんで我々がこれをやるのか?を限りあるリソースで真剣に考えている。そのとき、ある種トップダウンに近いような形を自分は望んでいなくて、コミュニティのメンバーが自発的にどんどんやりたいことを言ってくれるような場を理想としているのだが、なかなか難しい。メンバーから引き出すようなときと自分からアイデアを置きにいくバランスをどのように取っているのか?
- ミッションやビジョンが違くてノレない組織はあると思う。こういう時、ノリは自分たちで作っていくのか?
ポリゴン・ピクチュアズ
最初は塩田さんが代表を務められているポリゴン・ピクチュアズのビジョンや事業に関する説明がありました。
ポリゴン・ピクチュアズでは、圧倒的なクオリティのアニメーションを世界に向けて発信することを目指しているということで、以下に面白いと思ってもらえるかどうか?が稼業だということでした。
また、同業他社に近い立ち位置であるハリウッドやピクサーと同じことをやっているようでは勝てないということで、日本が得意としているやり方(最小限の視覚で最大の知覚を得ることや亜流のCG活用)を取ったり、まだ業界ではあまりスタンダードではない考え方(例えばアジャイルなど)といった他社が取り組んでいない考え方を積極的に取り入れるようにしているということでした。
仕事の仕方としては分業制になっていて、クリエイティブ(211名)×テクノロジー(40名ちょい)×マネジメント(130名)の3軸で組織人員は構築されているそうです。
開発の手法はフェーズによるもののウォーターフォールが主流で*1、工程間の連携を減らすために素材であるデータ連携の仕方を工夫したり、単純作業は積極的に自動化(スケール可能な状態)しているというお話でした。
塩田さんはなぜ今の立ち位置を確立できたか?
CG業界では大規模カンファレンスでChairを務めたり何度も表彰されたりと多くの実績を残されている塩田さんですが、実は画力は低いそうで、このような立ち位置に至るまでにどのようなバックグラウンドがあったのか?という話を聞いていきました。
以下の要素をスティーブ・ジョブズがいう点と点の形で結べたことが、今の立ち位置につながったんじゃないか?ということです。
- 英語が喋れた
- マルチな文化圏を経験した
- 製鉄所で働いていた。そこではコンピューターやITの知見を一定学ぶことができた
- アニメーション制作とコンピューター制作の共通点に気がついた
ノリと組織
続いて、組織運営をする上で塩田さんが何を意識しているのか?という話で、「ノリ」の話がありました。
人生では自分が何を信じられるのかを知ることが重要だと言う話はスティーブ・ジョブズの話でもありますが、塩田さんは「ノリ」が組織にとって重要であることを信じているそうで、組織がノッているときは落とし、ノッていないときは上げるようにしているということでした。
また、この「ノリ」をベースにしながら、法人/個人, Whyの提示, 場, 物語, エントロピーの法則と相対的に変化しないものの5つを意識して組織運営をしているということです。以下にそれぞれの要素を記載していきます。(Howの話をしているわけではない点は注意)
法人/個人
塩田さんは大学時代法学部で学んだそうですが、その中でも「企業は法人であり、組織も人である」という考え方が強く印象に残ったそうで、ポリゴン・ピクチュアズの母父だと塩田さん自身を捉え、組織と個人が共に成長することを重要視しているということでした。
実際、ポリゴン・ピクチュアズに苦しい場面が訪れたときには、社員各々の人格が発されたことで危機を乗り切った場面が多くあったそうです。
他にも、生産性向上という側面ではコンサルタント経験者が大きな貢献をしてくれたり、日本市場をよく理解している人が物語を展開をしたりと、個人の成長が法人の成長と一体化する場面を塩田さんは経験してきたそうですが、その時の感動はなんともいえないそうです。
Whyの提示
会社が初めて何かしらの賞にノミネートされたりした際は、会社全体が強くモチベートされる一方で、毎年そこにノミネートされ続けると最初に感じた感動はどんどん薄れてきてしまうそうで、そういったときのためにWhyを常に問い続けているということでした。
具体的な取り組みの一例としては、「今年の漢字」があるそうで、漢字に込められたピクトグラムを背景にして、なぜこの漢字が今年重要なのか?というのを提示し続けているそうです。*2
場
社員の居場所とは何かを考え、「場」を作っているそうです。
直近の取り組みで言えば、リモートワークになってクリエイティブさが生まれるような場が足りないことを危惧して、オフィスの2/3を社員同士が交流できようなフリースペースに近い場所に変更したそうです。
フリースペースでは動画の上映会をしてその感想戦をしたり、各分野の匠を集める匠セミナーの開催をしているそうで、予定調和が廃されるような雑音を意識的に取り入れているということでした。
物語
人を動かすのは物語*3だということで、And But Thereforeで物語として人に物事を伝えることを意識しているということでした。
伝える力というのは人の心を動かす力だとお話をされていて、伝わらない人の話を聞くと、And/And/AndになっていたりAnd/Butで止まってしまうケースが非常に多いそうです。
そんな背景もあって、ポリゴン・ピクチュアズでは、新卒面接で必ずAnd But Thereforeでライフストーリーを語ってもらうようにしているというお話もありました。
エントロピーの法則と相対的に変化しないもの
生命にとって大事なのは進んで壊すことだというお話があり、変化に抗うのではなく変化を自然とするのが生命だということです。
ただ、人間は唯一脳だけが細胞の再生をほぼしないようになっているため、変化に抗いたくなる場面がはどうしても出てきやすいということで、そのときに「相対的に変わらないもの」「相対的に変わるもの」を把握しておくことが重要だということでした。
おわりに〜プロダクトづくりで大切なこと〜
AIの台頭が激しい中、魂を動かすことは人間だけができると塩田さんは思っているそうで、人間の付加価値はプロダクトを使った人の魂を揺らがせるようなプロダクトを作ることこそが大事なのではないか?という話が最後にありました。
塩田さんはそういったプロダクトを作り続けていくし、発表を聞いた人たちもそのようなプロダクトづくりに熱量を注いでほしいということです。
質疑応答
発表後は質疑応答がありました。以下、その内容を常体で記載していきます。
伝える力の話があったが、「俺が正しい」という人にはどのように接しているのか?
絶対的に正しいものはないので、できるだけ相手の背景を感じ取ることが重要。相手がどうしてそんなことを考えているのか?というのを相手のコンテキストで理解しようとする。
点と点をつなげようと考えて次の点を打つときにどうしたらいいのか?
質問の答えになっていないかも知れないが、どうしたらいいのか?を考えるとはまる。ノッていれば自然な重力で進んでいる。その状態に抗わないことが大事。
(上記回答に対して) 自分はあるゴールに向かって計画を立ててそこからブレイクダウンするような進め方ばかりになってしまうが、それをやめてその時その時の最適解を探ることが重要だと理解した。
(上記に対して塩田さんの回答)計画を立てたくなってしまうという自分の特性を無理に封じ込める必要はない。ゴールを立ててもらえるような人の周りに自分を置くことが大切だと思う。
Whyが重要なのはわかるが、自分のWhyを探して言語化するという作業が辛いのだが、どうしたらいいのかアドバイスはあるか?
塩田さんの例で言えば、ノリを最重要視している。また、今日のような素敵な場に参加することが好きだからそういう場にいたいし、作ろうとしている。
また、Whyを言葉にできないことは何も恥ずかしくない。
グループマスターをやっていくぞ!!!!!(大声)みたいなノリを自分はするのだが、これについてくる人ついてこない人がいる。塩田さんはグループマスターとしてノリを作る際に気をつけていることはある?
何をしたらいいは言えないが、何をしたらだめかは言える。
学生時代バンドのオーディションを受けたのだが、そのときにあるバンドがオーディションで観客が全然予想していない突飛なパフォーマンスを初めた。その時観客はドン引きしていたが、そのバンドはこれがロックだと言わんばかりに続けた。
これと同じで、空気感を作る前にノるとドン引きされて人がついてこないことがあるので、絶対にやってはいけない。
ただ、空気感を読むのは難しい。塩田さん自身も会社で学生時代のバンドのようなノリをしたら社員が引いてしまいある社員は「そんな塩田さん見たくない」と泣き出してしまったりした苦い経験もある。
カンファレンスをコミュニティでやっている。そこではなんで我々がこれをやるのか?を限りあるリソースで真剣に考えている。そのとき、ある種トップダウンに近いような形を自分は望んでいなくて、コミュニティのメンバーが自発的にどんどんやりたいことを言ってくれるような場を理想としているのだが、なかなか難しい。メンバーから引き出すようなときと自分からアイデアを置きにいくバランスをどのように取っているのか?
これは非常に難しい話だと思っている。
明確なWhatを塩田さんは持つことがほとんどない。つまり自分がこれを作りたい!と思うことはほとんどない。そのため、Whyで方向性だけを決めるようにしている。
メンバーから自発的にアイデアが生まれたらいいなあというのはすごく思うが、何かをスケールしたいときに、与えてもらったタスクを黙々とこなすみたいな人は有用である場面があり、マネージャーから喜ばれて重宝されたりもする。
そのあたりのバランスをどうするかは塩田さんも悩んでいる。
ミッションやビジョンが違くてノレない組織はあると思う。こういう時、ノリは自分たちで作っていくのか?
人によって心地よいノリは違う。そのため、ノリに必ずしも共鳴できることはないと思うが、ビジネスとして良いものを目指すという意味でノリを大切にするのが大事だと思っている。なお、これはすぐにはできないことだと思っている。