天の月

ソフトウェア開発をしていく上での悩み, 考えたこと, 学びを書いてきます(たまに関係ない雑記も)

スクラムマスターとしての私を変えた、人類学  〜Great scrum masterへの道〜に参加してきた

distributed-agile-team.connpass.com

こちらのイベントに参加してきたので、会の様子と感想を書いていこうと思います。

Emiさんの講演

スクラムと人類学が出会うきっかけ

RSGT2021でZuziから、文化人類学や観察、「誰もが正しい、ただし部分的には」という言葉をもらい、そこでEmiさんは人類学に出逢ったそうです。
その後、2022/9にメッシュワークゼミで人類学を学び、2023/1にLyssaから「組織とは熱帯雨林のようなものである」「難しい会話をすることはスキルである」という言葉をもらい、その後にLyssaとも直接会話をしたことで、Emiさんの観察の形がダイナミックに変化していく印象があったということです。(どんな会話をしてどんなアドバイスをもらったかは以下のEmiさんのnote参照)

note.com

人類学を学んで何が変わったか?

色々な変化があるそうですが、自覚したBeingとしての変化としては、身近な人(Ryoさん)から「ネガティブ・ケイパビリティ上がったよね」と言われたことが大きかったというお話でした。

Emiさんとしても、判断を急いでいた自覚がずっとあった状態から、評価判断を保留する重要性と難しさを人類学で学んで実践した自覚があったそうで、たしかにそうかもしれないと受け入れることができたそうです。

note.com

こうした変化がおきた出来事としては、チームの中で起こったことを探し続けていた話をシェアしたときに、「Emiさん、自分の話ずっとしていました?」とフィードバックをされて自分自身のフィルター(眼鏡、バイアス)の存在を知り、そこで「客観的に見よう」という意識が強すぎてかえって対象を観察することができていないことに気がついたそうです。
そこから、自分自身にフィルターがあるのだから観察だけですべてを見ることなんて不可能だという諦めと、だからこそ人と関わらないといけないんだという覚悟が芽生えたそうです。

スクラムマスターのメタスキルへの効果

また、人類学を学んだことで、Zuziが提唱している5つのメタスキルを自覚的に切り替えすることができるようになったということでした。

例えば好奇心に関して、人の振る舞いには何かしらのコンテキストがあるというのを学んだお陰で、わからないことがあっても、「なんでだろう?どういう状況がこの人をこのような振る舞いにさせているのかな?」ということに好奇心を持てるようになったり、尊敬に関して、ネガティブなことがあった時にはチームや個人の可能性を信じた上で話を聞くことができるようになったということです。

人類学的態度によって変わったDoing

上述したように人の振る舞いにはさまざまなコンテキストや文化が重なり合っているということを自覚したことで、「私はなぜここにいるのか」を積極的に発信し、色々な方法で対話を試みるようになったそうです。

以前は、しっかりと対象がわかるまでは介入を控えようと意図的な発言を控えていたそうですが、参与観察を学んだことで、自身の意図を積極的に言語化しながら観察することをし始めたそうです。

www.yamaneco.co.jp

人類学的態度の確保方法

こうした人類学的態度を確保するためには、Emiさんはメモを距離によって変えたり*1時間的距離*2を変えて書いたりしていたそうです。
また、こうしたメモを取る時には、フィールドノートの考え方を使って自分自身も観察対象に含めてメモを書くようにしたということでした。
ただし、スクラムマスターは人類学者ではないですし、エスノグラフィーにまとめることがゴールではないので、対象と自分の距離を考えた上でヘッドノーツ(その場で頭の中に取るノート)、清書(断片的な記憶を総動員して状況を再現)、第三者への共有()、を使い分けすることが重要だということです。こうすることで、鳥の目魚の目的な形で、視点の切り替えができるということでした。

ノートでデータを蓄積する方法

ノートを取る際には、

  • 自分も含んだ観察対象の言動
  • 向き合っている問い
  • 仮説や気付き
  • 言語化が難しいと感じること

を、自分も含んだ全体を残した形で書き、自分の感じたことと相手の発言を分けるように記載していたということでした。

こうして蓄積したデータは、タイムラインで整理した後に、自分自身以外の焦点からも捉えるようにしたそうで、こうすることで例えばネガティブな状況に対しても自分の思い込みが影響しているのか?を考えるようにしていたということです。

人類学的態度

Emiさんが現在言語化できる人類学的態度とは、以下のようなものだと考えているということです。

  • 人間やその営みは奥行きがあり複雑なものである
  • みえているのはほんの一部である
  • 一見意味のないデータものちに繋がることがある
  • 一側面のみで見るだけ評価判断できない
  • 長期的に、「能動的に」流れに身を任せる
  • その場に居合わせ、自分を含めたその場で起こることに自分を開いておく
  • 答えがでない/わからない状況に身を置き続ける

Q&A

発表の後はQ&Aがありました。以下、質問と回答を一問一答形式かつ箇条書きで記載していきます。

どうやって判断を保留できるようになったのか?

評価判断が逆効果になることが知ったというのが大きいと思う。

もちろん判断を保留することに難しさを感じることはあったが、新卒のときの体験が見えるものを曇らせる眼鏡となっていたことに気がつくような体験があったり、沈黙をポジティブに取り扱うことができる*3ようになったりしたことで、できるようになった。

そういった過去の体験を思い出すことに苦痛は感じたが、思い出した後は、「こういう行動をしないといけないよな」となったので行動変化自体はそんなに大変ではなかった。

保留と評価判断の使い分けは?

あんまり使い分けているという感じはないかもしれないが、チームや組織に向かう時には検査と適応をしたいので、そういうときは保留を積極的にしていくような感覚はある。

おすすめの本

マリノフスキーがおすすめではあるそうですが、「なんだこれ?」となる可能性があるので、読みやすいという意味だと菅原先生の目線で書かれた以下の本がおすすめでだそうです。

sekaishisosha.jp

www.amazon.co.jp

方法としてのフィールドノート

booth.pm

また、spring_akiさんからも、リサーチのはじめかたの紹介がありました。

人類学的態度をしてから前より疲れやすくなったりはしないか?

わからない状況に対して使うカロリーが減ったので、むしろ前より疲れにくくなった。(わかるための判断の方法が評価判断しかなかった)

全体を通した感想

Emiさんの変化の過程が、人類学やRSGTでの学びの観点から丁寧に語られていて、めちゃくちゃ面白かったです。

自分がここまで点として見てきたここ数年のEmiさんのアウトプットが、一つの線として繋がったように感じる発表で、何を考えてどんな課題を抱えながらどのように変化していたのか?というのがめちゃくちゃ知れたのが、個人的には特によかったなあと思いました。

ノートの取り方の部分は、自分は一つのパターンでしか取っていませんでしたが、対象との距離を考えたり書き方を変えたりするのはぜひ明日から試してみようと思います。

*1:現場、新幹線の中、自宅...

*2:その日、次の日、数日後...

*3:ポジティブが良いというわけではなく、取り扱ったほうがやりやすいと感じた