天の月

ソフトウェア開発をしていく上での悩み, 考えたこと, 学びを書いてきます(たまに関係ない雑記も)

Running Lean原著者が登壇!アッシュ・マウリャ氏/来日記念講演豆寄席~イノベーターのギフトに参加してきた

mamezou.connpass.com

こちらのイベントに参加してきたので、会の様子と感想を書いていこうと思います。

会の概要

以下、イベントページから引用です。

豆寄席は、豆蔵が毎月行なっている技術イベントです。 業界のスペシャルな方や豆蔵のコンサルタントが講演し、気軽に質問や交流をしています。 今回はなんと、「Running Lean 第3版 ―リーンキャンバスから始める継続的イノベーションフレームワーク」原著者であるアッシュ・マウリャ氏にご登壇いただけることになりました!直接お話を聞ける貴重な機会です。是非ご参加ください!

会の様子

講演〜Running Leanの主要なアイデアの抜粋〜

最初にアッシュ・マウリャさんから、Running Leanの主要なアイデアの抜粋紹介がありました。以下に、その内容をまとめていきます。

前の時代と比較したプロダクト開発

依然としてプロダクト開発は難しいものの、前の時代と比較すると以下の点でプロダクト開発は簡単になってきている部分もあるよね、というお話がありました。具体的には、

  • ツールや知識にアクセスが簡単にできる
  • ビジネスを容易に起業できる
  • 安い値段でプロダクト開発をスタートできる

は簡単になりつつあるということです。

一方で、新たにチャレンジする必要が出てきた事柄もあって、

  • 同じ顧客を狙ったプロダクト(競合製品)の存在
  • 顧客が色々な選択肢をもてるようになった
  • 顧客にとって製品のスイッチングコストは低い

などは難しくなっているそうです。

これらを踏まえると、学習するスピードが圧倒的な優位性になってくるということでした。

学習する速度を高める取り組み

学習する速度を高める取り組みとして、リーンキャンバスなどを用いてビジネスモデルを高速に構築することが挙げられていました。

リーンキャンバスを使えば、最もリスクの高い部分を特定することができるというのが重要なポイントであり、顧客目線で価値提案やアウトカムを定義することが必須だということでした。
また、リーンキャンバスを継続的に検証して改良することも重要だということです。

課題検証の事例紹介

ドリルの製作会社が「1/4口径のドリルを作って欲しい」と言われた事例の紹介がありました。

まず、「1/4口径のドリルを作って欲しい」という要望は、「1/4口径の穴を作って欲しい」と言えるだろうということで、この課題を例えばユーザーインタビューなどでヒアリングしていくのが望ましいそうです。
次にリスクの特定ですが、これはドリル歯の強度が低いことが考えられるそうで、このリスクに対してアウトカムを重視して考えることが重要だというお話でした。

ただし、実際にドリル会社が導き出したソリューションとしては、本来3stepで済む内容を12stepにしたソリューションだったそうで、なぜそうなってしまったのか?という話が次にありました。理由はいくつか考えられるそうですが、代表的なものとしては以下のようなものが挙げられるということでした。

  • ソリューションのコンテキストから抜け出すことができない(ソリューションを起点に課題やアウトカムを考えてしまう)
  • アウトカムにフォーカスできていない(例えば、壁にボロボロにして1/4口径の穴を開けてしまうのは望まれている訳では無い)
  • ユーザーインタビューでWhyの深掘りができていない

プロダクトを作っていくと、機能的なユースケースに固定されがちなので、ユーザーが何をしたいのか?にフォーカスすることが重要だということでした。(今回のドリルの例であればドリルを作るのではなく、ホームオーナーを作る必要があったかもしれない)

質疑応答

講演後には質疑応答がありました。以下、質問と回答を常体で記載していきます。

既存事業やサービスに対するイノベーションを起こすという考え方でもリーンキャンバスは使えるか?

既存事業や既存製品にも使える。

課題よりもソリューションにフォーカスがいきがちだが何か工夫はあるか?

Running Leanで書いてあるイノベーターのギフトも参考にして欲しい。既存の課題(製品)を置き換えるものはなにか?ということを考えるのが重要。

ヒアリングをすることが重要だという話があったが、ドリル会社の事例でもしドリルが必要ないと判断したらどのようなアプローチをしていくと良いのか?

ドリル会社が実行するのに適していないユースケースを見つけたとしても、他のユースケースを探すこともできる。
また、場合によっては、競合が現れる前に撤退ということも考えられる。

本に書いてある話だと、AppleiPhoneを開発することでiPodを潰していった事例は挙げられる。これは、顧客のアウトカムにフォーカスした結果、既存製品を適応していった結果だと言える。

ピボットしていく必要が出てきたときにどうやって新たなユースケースを思いつくのかヒントがあれば教えてほしい

新しいユースケースを考える前に古いやり方を理解することが重要。これもイノベーターのギフトのコンセプト。

Running Leanに書いてあるエレベーターピッチが既存で言われているエレベーターピッチと大分違うことに驚いた。これはバイアスを避けるためか?

イノベーターバイアスを避けたいというのもあるし、価値提案を追いたいという理由もある。

エレベーターピッチは映画の予告であり、あくまでもコンセプトを説明するものである。そう考えると、まずは使っているプロダクトに対する問題を見せるのが重要だと思っている。

エレベーターピッチで大事なのは、もっとエレベーターピッチを知りたいと思ってもっと質問をしてもらうこと。

今回の例ではWhy?を用途別に繰り返していたと思うが他の事例はないのか?

インタビューが望ましい事例だと思う。
また、イノベーションの文脈であれば、検証よりも発見に注目することも重要。

なお、今回触れたWhy?の繰り返しは非常にアグレッシブな手法であるため、インタビューの際は直接Why?を問いかけるのとは別の聞き方をする必要がある可能性も高い。

他にも観察するというアプローチもあると思うが、自然な状態で観察しないといけない。(観察していることでユーザーが本来しない行動をしないようにする必要がある)

今回の話は、目的や目標をユーザーニーズに対応した形で求めた事例という解釈でよいか?

その通り。リーンキャンバスを書く際には、具体的な目標を立てていく必要がある。

場合によっては複数のリーンキャンバスを作る必要がある。

顧客が不特定多数(顧客の種類が多い)でありインタビューができない場合はどのようにアウトカムにたどり着くことができるのか?

顧客のパターン化をすると良いのではないか。

なぜの先にはユーザーのハッピーや信念があるのか?

究極的には感情部分にあると思う。
例えば自動車なら、ただ走れるだけではなく、ステータスの象徴などが入ってくる。

なお、よくある話だと、競合商品はスプレッドシートやEmailだったみたいなこともよくある。

よりよい製品よりもよりよいユーザーを作るというのはどういう文脈でのコメントだったか?ユーザーを教育して新しい体験を開くという文脈だとソリューション志向の罠にはまりやすいと思う

顧客の目線に立つことが重要だと言いたい。

教育という言葉で話すなら、顧客が何をしたらアウトカムを達成できるのか?という教育をすることが重要。

例えば、リーンキャンバスのオンライン版製品に対して印刷機能がほしいと言われたことがあるのだが、そのときに、

  • 印刷可能にした
  • PDFをエクスポートできるようにした
  • スライドとして使えるようにした

という3つの機能を作った。結果、これは現在最も使われている機能になった。

プロダクト開発のコンサルティングの現場では、課題をよく観察することやヒアリングが疎かになりがちになるのでリーンキャンバスを最初に見せないようにしている。どう思うか?

常にある課題だと思っている。最初にバイアスをすべて取り除くようにしている。

リーンキャンバスは1ページしかないので、アイデアをほどよく具体的にしやすい。
彼らが達成にしたいことを明確にした上で、そこに対して質問を投げかけ、疑義を見つけてくる。(アイデアをテスト可能にしていく)

ビジネスモデルキャンバスを参考にリーンキャンバスを作ったのだと思うが、ビジネスモデルキャンバスの何が良くなかったのか?

どっちがいいという話ではなく、違うものという捉え方をしている。

ビジネスモデルキャンバスは既存のモデルのドキュメンテーションだが、スタートアップの文脈でそういった既存のモデルがわからないことも多いので、リーンキャンバスのほうが適している。

リーンキャンバスの肝は課題だと思っている。

第二版と比較して最も変わっている場所は?

リーンキャンバスは常に進化しているので、インタビューのテクニックやより広いコンテキストへのフォーカスなどが変わっていると思っている。

例えば、前の本では「課題インタビュー」と読んでいるものがあったが、これは顧客にバイアスをかけてしまうことにつながることがわかった(=スポットライト効果)ので、書かないようにした。

会全体を通した感想

まず、アッシュ・マウリャさんが来日しているのはびっくりしました。

講演でも質疑応答でも、「課題を愛せ」「より広いコンテキストで物事を捉えよ」という主旨の話が何回か出てきましたが、このあたりは第一版のときから変わらないんだなあというのを痛感しました。

久々に著者参加のイベントに参加できて楽しかったです。