天の月

ソフトウェア開発をしていく上での悩み, 考えたこと, 学びを書いてきます(たまに関係ない雑記も)

UX Study#3「UXに向き合い悩んだ20年間の軌跡」に参加してきた

forkwell.connpass.com

こちらのイベントに参加してきたので、会の様子と感想を書いていこうと思います。

会の概要

以下、イベントページから引用です。

様々なサービスが世に生まれる中で「ユーザー体験」というワードがよりフォーカスされる様になりました。当初はデザイナー寄りなトピックとして扱われていましたが、より良い体験をユーザーに届ける為にはエンジニアも協業し、サービスやシステム全体の作り方からユーザーのことを深く考え、チームとしてユーザー体験の向上を目指す必要性があるという考えが広まってきました。デザイナーだけでなく、エンジニアやPdMにとっても重要なテーマになったUXについてForkwell Communityとして学びを届けたいと考えました。

そこで、ForkwellはモデレーターにUXデザイナーで人間中心設計の専門家である羽山 祥樹氏をお招きし、UXについて学ぶ勉強会「UX Study」を企画しました。本シリーズは全4回を予定し、幅広く体系的にUXに関する学びを届けて参ります。 第三回目では株式会社ユーザベース CDOの平野 友規 氏をお招きして、事業会社におけるUXへの取り組みや挑戦についてお聞きして参ります。

会の様子

平野さんの基調講演

平野さんが20年間何と戦い、どのような試行錯誤をUXに関して繰り広げていたのか?という話が基調講演としてありました

飲み会UX

制御できる要素と現象と道具を分けて考えないとだめだ。デザイナーができるのは"体験のためのデザイン"なんだ、という話を須永先生にされたことが平野さんにとっては大きな体験だったということで、これを飲み会UXと読んでいるという話がありました。

飲み会は、

interface : 大きさや形は制御できる
interaction : ユーザとの関わりのうち、持ちやすさや開口などは制御可能
Service : ユーザーとサービズプロバイダーの関わり
Experience : 飲み会の雰囲気、会話、感想は制御不可能

という風に分解ができるよね、という話で、制御できるものと制御できないものを意識して分解するのが大事だということを示した例えだそうです。

今回の発表で伝えたかったのはこれがほぼすべてだったということですが、こういった結論にたどり着くまでの道筋を物語のような形で説明してくれました。

第一章〜情報デザインとの出逢い〜

平野さんは情報デザインを勉強するために大学に入ったそうですが、入ってみると情報デザインが全然わからず、最初はポエマーとして活動を始めたそうです。

そんななかでも一生懸命勉強をしていた平野さんだそうですが、UXはデザインの対象だと信じている人は限られていたこともあり、卒業制作では「それはデザイナーの越権行為だよ」とフィードバックを受けたそうで、大きなショックを受けたということでした。

第二章〜新卒Webデザイナー

新卒でWebデザイナーとして従事した平野さんは、大学時代に4年間学んできたことがまったく役に立たないことに気がつき愕然として、これまでの学びはすべて脇に捨ててWebグラフィックのお作法を習得することを決めたそうです。

一方で、iPhoneが発表されたことでデザインの対象にUXが入り始めたことは実感していた時期だったということです。

第三章〜Webからスマートフォンへ〜

IA100という本やUX白書が発表され、Webを中心にUXの啓蒙活動がされ始めた時代がこの時代だということでした。

平野さんは「Webを中心に」という部分やかなり狭い範囲でUXデザインの話がされていることに違和感があったものの、UXデザインという話をデザイナーがしだすことには恐れがあったそうです。

第四章〜デザイン業界への絶望と希望〜

平野さんは、この時期は新規事業開発を色々やっていたということでした。
エスノグラフィーをやるために上海に飛んだり、色々なステークホルダーが集まった場で出てきた発話だったりステークホルダーマップやカスタマージャーニーマップを書いたり、営みを掲示物やチラシから分析したりしていたそうです。

そんなときに、「デザイン思考が世界を変える」が上陸し、ここで自分の進め方がデザイン思考のFWと異なることに不安を覚えてしまったりしたことや、実績はないけどプレゼンはうまくてFWは知っているようなデザイナーが登場したことなどに絶望し、気をかなり病んでしまったということでした。

そんなときに、Buchanan's Orders of Designと出逢い、デザインの新しい領域に希望を見出したということでした。

第五章〜SaaSとインハウスデザイナー〜

現在は、現場で求められていることをなんでもやっているような状態だそうで、現場のメンバーを巻き込みながら非常に色々なことにチャレンジをし始めたそうです。これにより、現場で求められていることをやることを平野さん自身が好んでいることがわかったということでした。

UXリサーチとしては、Salesforceの商談ロストレポートや解約レポートを毎日読むことやセールスメンバーの日報を読むことを中心に行っているということでした。

現場で必要なUXの捉え方

これまでの経験を踏まえて、UXのアプローチは一つではないという話が最後にされていきました。

これは、ビジネスモデル/POユーザー解像度/事業ステージといった変数があることが理由になっていると平野さんは考えているそうです。

そのため、イベントで聞いた話や本で書かれていた際はあくまでもその場での局所的な最適解ということでした。

Q&A

基調講演の後は、Q&Aがありました。以下、常体で一問一答形式で内容を記載していきます。

なぜはじめてのUXリサーチが平野さんは一番のおすすめなのか?

議論と現場実践のバランス+現場で結果を出しているか?が重要だと考えている。この要素がすべて揃っているのが「はじめてのUXリサーチ」なので、一番おすすめした。

はじめてのUXリサーチで一番勉強になったパートは?

インタビューで追加質問するときの観点で、「頻度」が出ていたのが一番印象的だった。

UXで結果を出しているとはどういう状態?

UXリサーチで結果を出している、という意味で平野さんは考えている。
UXリサーチは必ず事業KPIに紐づくので評価しやすいと思っていて、これらの指標が優れていることをUXで結果を出しているという風になイメージを持っている。

SPEEDAでN1インタビューの方がフィットしていると考えた理由は?

ペルソナで話すと、「それ誰のこと?」と聞いてくる風土や具体的な話が好きな文化があったため。

社内のUX啓蒙は最初からうまくいったのか?

UXカンファレンスの話を詳しくは見てもらえばと思うが、トップダウン*1ボトムアップ*2の両方を繰り返しやったことが大事だった。あとはくどくても繰り返すこと(自己催眠)も重要だと思っている。

なお、最初はボトムアップでやった。

PMやPOに学ぶべき最初の本は?

プロダクトマネジメントのすべてとかがおすすめだと思う。
ただし、状況に応じたアプローチがめちゃくちゃ重要なのはプロダクトマネジメントもそうなので、鵜呑みにしすぎないことは重要。

ユーザ体験を自分が直接体験すべきか?

人にとっては必要ないという人もいるが、平野さん的には直接体験できるのがベストだと思う。
ただ、できないことも多いので、そういう場合はできる限り体験することが重要だと考えている。

体験が難しければ、これはもう聞くしかないので、インタビューをひたすらしていくしかない。

平野さんは後継者育成についてどう考えているか?

かなりタイムリーな話題。
CDOに関しては社内で育てている人はいるが、マネジメントよりもグローバルな環境でプロダクト開発するほうが好きだということで外から引っ張ってきたほうがいいのでは?と思い出している。

UXデザインという意味では、火(情熱)を既に持っているような人に託すというのが重要だと考えている。

会全体を通した感想

話を聞くのは初めてでしたが、平野さんの情熱や人間味が溢れていて、非常に印象的なイベントになりました。

UXデザインやUXという言葉が持つ重みや、定義に迷うことや教科書どおりに進めることよりも現場で求められていることや現場の課題を重視することが重要だというメッセージは特に刺さりました。

*1:課題をPOや上位層に伝える

*2:ワークショップ開催やSlackへのUX関連話題投稿