天の月

ソフトウェア開発をしていく上での悩み, 考えたこと, 学びを書いてきます(たまに関係ない雑記も)

「測りすぎ」を読んだ

こちらの本を読んだのですが、非常に面白かったので、感想を書いていこうと思います。

定量化された指標と信頼

本書では、定量化された指標がどのような局面で必要になっていくのか?という話が紹介されていたのですが、このキーワードの一つに信頼がありました。
低信頼組織では説明責任を相手に求め、その結果指標を提示する事によって、あたかも客観的であるかのように見せようと定量化された指標を持ち出し、状況が透明化されているかのようにお互いに錯覚してしまうというのは、非常に合点がいく内容で、自身の経験とも合っていて面白かったです。*1

本書のネタバレになってしまうので詳細には紹介しませんが、他にも仕事の複雑化だったり組織構造の話が定量化された指標を生み出そうとする行動に対してどのように結びついているのかが記載されていて、面白かったです。

透明性を上げるという事について

透明性を上げる取り組みは、公共機関や政府、SNSなど様々な場所でムーブメントとなっていますが、人間が信頼関係を構築するために行なっている秘匿領域のコントロールをしにくくさせたり、矛盾する要求の均衡点を探る取り組み*2の妨げになる恐れがあるという話がありました。

スクラムを実践しているというコンテキストもあるのか、自分自身透明性を上げるという言葉にはポジティブな響きを覚えることが多いので、透明性の危険性を知れたのは良かったです。
また、このあたりは、意図的にバイアスをかけることで行動をしやすくしているという行動経済学で語られていたような話も思い出しました。

幅広い学問とのつながり

本書で語られていることは、経済学、社会学、人類学、行政学といった学問で言われているようなことの統合であり、筆者自身もスピルオーバー効果によって本書の執筆に至ったという話が面白かったです。
これまで少しだけしか勉強してこなかった学問や全く勉強したことのない学問が、組織や評価の機能不全を引き起こすメカニズムの説明に一役買うことがわかり、新たな学問への参照点が作れた感覚がありました。

また、一見関係のない多種多様な学問を広く学ぶ重要性についても、改めて実感する内容になりました。

全体を通した感想

幅広い学問で研究されてきた事例をいくつも紹介し、それぞれの事例についてどのようなメカニズムが働いているのか?というのを明らかにし、最後にそのメカニズムを「定量化」というキーワードで整理してくれるという構成で、読んでいて非常に読みやすく、納得感もありました。

透明性の罠の部分や、低信頼組織だからこそ指標が必要になるという話の部分は、自分自身の行動についてだいぶ考えさせられる点が多く、学びがある本でした。

*1:低信頼な初期には、バーンダウンチャートやベロシティを計測したいという動きが強くなりがちになりますが、チームが成熟してくると価値に目を向け出す

*2:お互いにとってwin-winに思えることでお互いが納得して行動できるようにするための取り組み