ふりかえり実践会主催の、
retrospective.connpass.com
にブログ書くよ枠で参加してきたので、参加レポートを書きます。
※どうしても参加したかったのでブログ開設しました
イベント概要
名前の通り、スクラムガイド2020で改訂された部分を皆で話してみよう、という会です。
日本で唯一のレビューアだった江端さんも参加されるとのこともあり、一日で84人集まるイベントになりました。
今回、レビューアでしたが、もし何かコミュニティ貢献になるなら、気軽にお声がけ下さい〜
— ebacky (@new_ebacky) 2020年11月20日
レビューしていた時の様子とか画像なら、コミュニティプライベート限定で、こっそりお見せするとか、脱線ネタもありますw
スクラムガイド2020はこちら
https://scrumguides.org/docs/scrumguide/v2020/2020-Scrum-Guide-Japanese.pdf
イベントで出た話
前半戦 : 改訂後のスクラムガイドで気になった所をディスカッション
真のリーダーとは
とスクラムガイド2020のP8にありますが、真のリーダーとは一体何か?という話を議論して、以下の話が出ました。*1
- 怪しいSM(雑用だけやる/何もしないことが仕事だと考える)が多発したから、チームの結果に責任を持っていることを強調したかった
- 幅広い層(特に経営者)に刺さるようにしたかった
- 当初あったサーバントリーダーという定義だと、支援の要素が強い。支援だけで1人分の価値を出していることを証明するのは難しいので、サーバントリーダーという言葉を廃止したのではないか
また、スクラムマスター=リーダーとすると、リーダーという単語が役割を想起させて、チームメンバーがリーダーシップを発揮しにくくなるので、そもそもリーダーという単語を消した方がいいのでは?という話も出ました。
自己組織化->自己管理
理想とすべきスクラムチームが語られる時のキーワードだった自己組織化という単語が自己管理に代わったことについて各々が感じたことを議論しました。
- 自己組織化という言葉が一般的でないので、分かりやすくしただけでは?
- Self-organization が organization (会社でgiven) と敵対する聞こえ方になっている
- チームが自己組織化するには、チームメンバーが自己管理できている必要があるので、まずは自己管理できていることから目指そう、というメッセージ性を感じた。
- チームの話から個人の話への転換が強すぎる
- 自己管理だと自分のことしか見えてないように聞こえる...
- 大規模スクラムの文脈で、チームは組織に対して働きかける事も必要だから、チームで閉じた組織になっちゃだめだと訴えたかった
- 自己管理する対象が、開発者だけではなくてスクラムチーム全体に広がったのが良かった
- 個人はスクラムチームのために滅私奉公せよという誤解が周囲であったので、まず個人を蔑ろにしないようにという意味ではよかった
- 自己組織を開発チームとスクラムチームのネストに掛けないで、自己管理を個人とチームに掛かるようにした
- 自己組織化は自己管理を含むと思うので、範囲が限定されたように見える
- 「自己組織化よりも自己管理」の書き方がアジャイルマニフェストっぽい。右を重視することにしたけど左も大事って伝えたかったのでは
等々の意見が上がりました。
分かりやすい言葉に変更されたってだけな気が個人的にはしてましたが、沢山の解釈や意見が聞けて楽しかったです。
特に、チーム全体が良くなるためにまずは個人が良くなるっていう考え方は面白い解釈で、新たな発見でした。
プロダクトゴール
スクラムガイド2020版で新たに追加されたプロダクトゴールという言葉について、皆さんの解釈を出し合いました。
- お客様をいつまでにどうしたいやKPIとかがプロダクトゴールに当たる
- 「プロダクトゴール=リリース」のイメージを持った
- 今まであったスプリントゴールはスプリントバックログをサマリしたものでしかなかったので、プロダクトが生み出す価値に意識を向けさせたくて生み出された言葉
- スクラムガイド2020のアップデートセッションではプロダクトゴールをまともに説明している人はないかったようなので、あまり理解している人は少なそう(実装した人がセッションしていなかっただけかもしれない)
- スクラムチームが近視眼的動きをしがちな点に問題意識が置かれて生み出された言葉
- スクラムは無計画だという誤解を防ぐための記載
- 対外向けの説明責任の一つとしての単語
- プロダクトとスプリントに対照性を持たせたくて生み出された言葉(ただし、プロダクトバックログはプロダクトゴールから生み出されてもスプリントバックログはスプリントゴールから生み出されることは殆どないので、対照性を持たせることに失敗してる)
POがPO以外に委任
2017年度版と比べて、POがPO以外の人に作業を委任していいことが分かりやすくなったのが良かったね、という話をしました。*2
また、プロダクトバックログ関係のことはPOが全部やらないといけない、みたいな思い込みが現場では根強いので、いい変更ではないかという話もありました。
その他
- スプリントバックログの定義が分かりやすくなった
- 「スプリントゴールはスプリントの唯一の目的である」という表現が強く感じた。(現場で唯一の目的じゃなくなった時、説明に困りそうだと感じた)
- 全体的にすっきりした
- 大分ビジネス寄りになった
- 「計画」という言葉が誤ったイメージ(ガントチャートを描く)を持たせそう
などの話も出ていました。
後半戦 : 江端さんから聞くスクラムガイド2020の裏話
後半1時間は、江端さんからレビュー時の様子について沢山のお話を伺いました。
レビュー当日の雰囲気
Exper licenseを持ったトレーナーのみが招集されてオンラインで開催。
冒頭ではNDA的なものが厳格に締結された。*3
参加者は皆アクティブで、発言も多くチャットの流れも速かったそうです。
レビューのやり方
スクラムガイドの各項目ごとにグループを作り、グループ内でディスカッション。グループは定期的に移動していたようです。
Miroやスプレッドシートなどのツールを使って議論を整理し、最終的にスクラムガイドに変更を反映する方法でレビューを進めていました。(実際の様子を示した画像も見せてもらいました)
2020年度版を発行するにあたって掲げられたコンセプト
以下のようなコンセプトが一例として掲げられていたとのことです。
- IT業界でなく幅広い業界に適用可能なものとする
- アーリーアダプターしか分からないような表現はやめる
- あくまでもガイドなのでパーフェクト性や厳密性は求めない
- ビジネス要素を強くする
- SOLIDなガイドにする。ある程度の誤解を招くのは割り切る
レビューに携わって良かったこと
KenとJeffから、スクラムとはこうあるべきだという熱意を感じられたことや、聞いたことのない文献や学術的な知識を提供してもらえた点では、参加して良かったと江端さんは話していました。
レビューに携わって大変だったこと
レビュー参加に当たっては勿論苦労話もありました。特に、
- 23:00~7:00に会議が開催
- 意見を出すと200~300人から袋叩きにされる。
は大変そうでした...
レビューに携わった江端さんの想い
1. ROIを意識できるプロダクトオーナーが日本でもっと増えて欲しい
2. スクラムの実施者(特にPO)は正しい責任感を持ってほしい
3. 日本と世界で差が広がってきていることに危機感がある
4. スクラムガイドの活用法
の4つについて、江端さんの想いを語って下さいました。
1. ROIを意識できるプロダクトオーナーが日本でもっと増えて欲しい
経済を回していくようなイノベーティブなPOが日本では少ない。
日本のみならずアジア圏全体の課題でもあるため、今回のレビューでもPOの記述にROIに関する記述の追加を提案したが、却下された。*4
2. スクラムの実施者(特にPO)は正しい責任感を持ってほしい
プロダクトが炎上した時にどうにかしてリカバリーするのではなく、炎上しないことを目指すチームになって欲しい。
結果を出すんだという覚悟を持ってほしい。(スクラムだから遅延しても仕方ないよね、という空気を感じることがある)
3. 日本と世界で差が広がってきていることに危機感がある
スクラムが世界でも日本でも広がりを見せている一方、日本と世界では出す成果に明らかに差が生まれてきている。
先日開催されたスクフェス札幌(https://www.scrumfestsapporo.org/)をはじめ、最近日本でのコミュニティ参加を江端さんが増やしているのはこのためである。
日本人が悪いとかいう話ではなく、江端さんをはじめとするスクラムを普及させる人たちが、もっと上手く伝えていかないといけない、と思っている。
4. スクラムガイドの活用法
スクラムガイドはあくまでもガイドブックであり、ルールブックではない。
スクラムガイドを完全なものとして捉えるのは危険で、「スクラムガイドに書いてあるから~すべきだ」と考えてはいけない。常にどうすれば最も成果を出せるのかを考えてほしい。
ガイドなのだから、あくまでも指針として活用すべきで、ガイドに書かれていないこと(例えばスクラム以外の学問など)も積極的に取り入れていく姿勢を持って欲しい。
ガイドとのイメージとしては、観光のガイドブックをイメージすると分かりやすい。観光のガイドブックには、「観光の指針を決めるために、~するのがお薦めだよ」と書いてあるだけで、ガイドブック通りに観光することは有り得ないはず。
観光ガイドとスクラムガイドでガイドという言葉が持つイメージが変わってしまっているのは、おそらく皆がスクラムに熱中し過ぎているからだと思う。上手く伝えられるように、ガイドの発行者として努力を続けたい。
なお、ルールブック感が強くなっているのは否めない。ルールブック感を弱めようとすると、回りくどい表現が多くなりページ数が膨大になるので仕方ないと思っている。それに、観光ガイドにだって「~には注意!」みたいな言及はあるはず。
また、全く別の視点で、スクラムガイドの各章はトレーナーの一部しかレビューしていないので、レビューしたトレーナーの構成によって、記載粒度にばらつきが出ている(一部章についてはルールブック感が強くなっている)という事情もある。
今後スクラムはどうなっていくのか
今回の改訂で大分ビジネス寄りにシフトしたので、XPをはじめとしたスクラム以外のアジャイルとは距離が広がりそう。(江端さん個人としては仲良くして欲しいという希望はある)
また、スクラム実施者は未来よりも過去に比重を置きがちであるという課題が世界的にも認知されつつあるので、今後未来への意識を強くさせるような記述が増えていくかもしれない。
延長戦 : アフタートーク
レビューという言葉が持つ意味についての議論や、スクラムガイドをカルチャライズ/ローカライズできないかという議論、形と型の話(形無し→形作り→型作り→型持ち→型使い→型破り→形作り...)など、様々なトークが繰り広げられていました。
本編の話で大分ボリュームが大きくなってしまったので今回は割愛しますー
感想
自分が今回の会を通して一番得たかった、「プロダクトや組織を良くしたり仕事を楽にするために皆が何を大切にしているか」という観点で多数の発見があり、参加できて本当に良かったです。
ブログには書いてはいけないと言われましたが、リアルな裏話を幾つか聞けたのも良かったですw
楽しい会で学びも多かったので、今後開催されるふりかえり実践会のイベントにも参加してみようと思います!
*1:スクラムガイド2017版では、「スクラムマスターは、スクラムチームのサーバントリーダーである」と定義されていました
*2:2017年版では「上記の作業は、プロダクトオーナーが行う場合もあれば、開発チームが行う場合もある」と記載されていたのに対して、2020年度版では「上記の作業は、プロダクトオーナーが行うこともできるが、他の人に委任することもできる」に記載が変更されている
*3:具体的には、宗教的な表現に関する注意, 外部に公開していいことダメなこと, 常に互いへのリスペクトを態度で示すこと...
*4:「ROI意識していない人はPOに選定される訳がないのにお前は何を言っているんだ」と顔を真っ赤にして批判を食らったり、ROI意識できない人と働いているなんて可哀想すぎると同情を貰ってしまった...